詩人 野口雨情 生誕140年に寄せて。。。

白谷仁子

2022年04月10日 20:51



 今年、2022年5月29日は、童謡・民謡詩人である野口雨情の生誕140年にあたります。
2013年、CD「白谷仁子 日本の歌シリーズ 野口雨情の童謡と民謡 “やがて土に”」(piano 竹中直美)が完成し、多くのステージで雨情の童謡・民謡を歌ってきました。
野口雨情の詩の世界と私。
この節目のときに、また新たな気持ちで、「やがて土に」という雨情の言葉と向き合って見たいと思います。







私が北茨城市磯原に訪れたのは2011年1月27日、震災の起こる43日前の事でした。
そしてその日は、詩人〈野口雨情〉の命日でした。
その日、野口雨情生家を訪れた私は、その落ち着きある佇まいに、何か『懐かしさ』のようなものを感じました。生家の2階の窓から見える海を眺めていた私の目の前を、大粒の雪が舞い始めた頃には、もうすっかり雨情の童謡・民謡の世界に引き込まれていました。

思えば、物心付いた時から雨情の童謡は私にとって、とても身近なものでした。
それは特別誰かに習ったわけでもなく、ただ、毎日のように家のどこからか聴こえてくる母の歌声が、私と雨情との出会いを作ってくれたのです。
ある時は足踏みミシンの「カタカタ・・」という音と共に、ある時はまな板の「トントン」という音と共に。

時折夕暮れ時に聴こえてきた母の歌う《赤い靴》は、私を言いようのない寂しさで包み込みました。
物悲しいメロディーにのせて歌われる、「いっちゃった」というフレーズは、子供心に『戻れない』『引き返せない』という、深い悲しみを感じさせました。

私が、赤い靴を履いていたきみちゃんという女の子が実在していたという事、そしてこの歌にまつわるエピソードを知ったのは、ずっと後になってからの事でした。
不思議なのは、幼い私が耳にした母の歌う《赤い靴》の印象は、その事を知った大人になった今も、全く変わらないということです。
〜 CD「白谷仁子 日本の歌シリーズ 野口雨情の童謡と民謡 “やがて土に”」から〜







  赤い靴
『青い眼の人形』から

赤い靴 はいてた
女の子
異人さんに つれられて
行つちゃった

横浜の 埠頭から
船に乗つて
異人さんに つれられて
行つちゃった

今では 青い目に
なつちやつて
異人さんのお国に
ゐるんだらう

赤い靴 みるたび
考へる
異人さんに逢ふたび
考へる

「小学女生」大正10年12月。
「小学女生」に掲載された初出形では第一連一行目〈はいてた〉→〈はいてゐた〉。第二連二行目〈船に〉→〈汽船に〉。第四連二行・三行・四行目〈考へる/異人さんに逢ふたび/考へる〉→〈思ひ出す/異人さん見るたび/思ひ出す〉である。






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