2022年06月29日

無になり 空になり。。。

  私の孤独は 透明体になり
     無になり 空になり 
       〜深尾須磨子「冬の森」から (パリ旅情)


無になり 空になり。。。



まだ2年しか経っていないのか・・・と、2020年2月のパリの空を思い出すたびに感じる。
自宅に帰り着いた時、パリへ行っていたとは言えないような独特の空気に日本は包まれていた。
得体の知れない恐怖と、「パリが歌いおさめなんて、洒落ているよね。」なんて諦めに近い気持ちがザワザワと胸に押し寄せて、ちゃんと眠れない夜が続いた。
そんな中でも、いくつかのコンサートや歌の仕事が続けてこれたことが、今では奇跡のようにも思えるのだ。

PCR検査を受けていても、コンサートの後2週間は怖くてこわくて、神棚に祈る毎日だった。
「こんな時期に歌うなんて、コンサートなど非常識。」
「音楽などなくても、生きることに何も困らない。」
そんな言葉が耳に、目に入るたびに心の葛藤は膨らみ、涙した。
自分にとってではなく、人間にとって音楽というものがどういうものなのか、言葉にならない活字が頭の中をグルグルまわった。

でも、誰にも、何も言えなかった。
もしも自分が音楽をしていなかったら、同じことを言っていたかもしれないからだ。

「お父さんがね、今日も ”最高や、もういつ死んでもええわいー” なんて言うんよ。」
コンサートの直後、電話をする度、いつも母がこう言って笑っていた。
父は、自分が娘の歌を聴くのと同じくらい、その歌を聴いて笑顔で帰っていくお客さんの姿を見るのが好きだった。

音楽とは、歌とはどういうものなのか。
なぜ人は歌うのか。。。

言葉にならない活字は、父の横顔と共に私の心の中で少しずつ透明になっていくだろう。


無になり 空になり。。。


◆お問い合わせ
090-4300-9616
koon.msk@gmail.com(白谷)


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6月24日、父が天寿を全ういたしました。
生前、コンサートの会場などではたくさんの方々に優しいお言葉をかけていただき、感謝申し上げます。
私に音楽の道を授けてくれた父、努力を惜しまないその生き方を最後まで示し続けてくれた父を誇りに、今まで以上に研鑽を積み、心の音楽をみなさまに届けていけるよう努力してまいります。
どうか、これからも声楽家 白谷仁子を見守っていただきますよう、よろしくおねがいいたします。

                                   白谷仁子
  

*深尾須磨子さんの「パリ横丁」については、今後少しずつ解説してまいります。